【ベートーヴェン】音大生が解説する「悲愴ソナタ」の弾き方

ベートーヴェン
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どうも、音大生のこうきです。今回はベートーヴェン作曲の「ピアノソナタ第8番ハ短調Op.13(悲愴)」を解説します。

目次

ベートーヴェン作曲「悲愴ソナタ」とは?

ベートーヴェンが唯一名前を付けたソナタ

ベートーヴェンの巨匠Daniel Barenboim(ダニエル・バレンボイム)の演奏

ベートーヴェンのピアノソナタは「田園」や「ワルトシュタイン」「熱情」「田園」など名前のついた作品が多いですが、実はほとんどがベートーヴェン以外の人が名付けた名前なのです。

その中で「悲愴」「告別」は唯一、ベートーヴェンが名付けたソナタとなります。(悲愴の名付け親は分からないけど、ベートーヴェンは承諾したらしい)

長い序奏がついた初めてのソナタ

ベートーヴェンまでのソナタは大抵第1主題から曲が始まることが多かったのです。モーツァルトやハイドンは第1主題から曲を始めています。

しかしベートーヴェンは、第1主題から曲を始めずに長い序奏を付けたのです。それも強烈な印象を持つ序奏です。

ベートーヴェンは新しい試みに挑戦する作曲家でした。交響曲第1番Op.21はハ長調にも関わらずへ長調の和音で始まります。これはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番変ロ短調が、変ロ短調という曲名なのに変ニ長調で始まるくらい衝撃なことです。

(だからルービンシュタインはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が嫌いだったとか)

ピアノソナタも例外ではありません。例えばピアノソナタ第1番Op.2-1の第2主題、定石通りの変イ長調なのですが、属音保存という技法が使われ、変イ長調に聞こえません。

ベートーヴェンは音楽界の革命家でした。

余談

これもダニエル・バレンボイム

(現在のオーケストラではトロンボーンが入ることは普通です。しかし、トロンボーンを初めて一般のオーケストラの曲に取り入れたのはベートーヴェンの交響曲第5番Op.67「運命」だったのです)

第2楽章は様々な曲に引用

Emil Gilels(エーミール・ギレリス)の演奏

「悲愴ソナタ」の第2楽章は様々な楽曲に引用されています。渡辺直美さんが出ているボートレースのCMにも使われています。

また「心の中にきらめいて」という合唱曲の中にも突然この作品が出てきます。完璧なパクリですが、悲愴は著作権切れているのでOKなんですよね。

「悲愴ソナタ」の弾き方

第1楽章

オクターブトレモロを制覇せよ

序奏はまぁそんなに難しくないです。弾けます。いや弾いてください。

第1主題のオクターブトレモロはそれはまぁとんでもなく難しいのです。こんなに長くオクターブトレモロをする曲はリストの「ダンテを読んで」の最後くらいでしょうが、ここは音量を出していいので楽なのです。

前回のショパン国際コンクールの覇者Seong-Jin Cho(チョ・ソンジン)の演奏

悲愴の第1楽章のオクターブトレモロは音量を抑えないといけないので難しいのです(回数もきちんと決まってるし)

イメージはティンパニのトレモロです。ティンパニ奏者はマレットをほとんど上げず、膜に近い部分で細かく叩きます。これをピアノに応用します。

指はあまり上げないで、細かく弾きます。指だけではなく、手首をほんの少し柔らかくすると、前腕の回転力が上手く指に伝わり、演奏できるようになります。

このようなトレモロやトリルにゆっくりな練習は不要だと思いがちですが、ゆっくりの練習は指の動きを確立するのに必須です。

ゆっくりでないと、脳がその動きを覚えられないそうです。そんな練習におけるヒントがたくさん詰まった本は、古屋晋一市のこちらの本

和音の跳躍は指先が命

オクターブトレモロをやりながら、右手は派手な和音の跳躍をしなくてはなりません。酷ですが、左手は見なくても弾けるのが救いです。右手は指先の感覚が命です。

私たちは視覚による認知に頼っていますが、本番では指先の感覚が頼りになります。練習のとき、私たちは手の動きを見るために目の練習をしますか?(これを本番で意識すると100%失敗する)

そもそも家の照明と本番の照明はあまりにも違うので、見てもよく分からないことが多いのです。指先の感覚こそが本番での成功を保証するのです。

指先の感覚とは黒鍵に触れる感覚や、鍵盤の位置関係のことを意識することです。鍵盤の幅は約1cm、これはほとんどのピアノで変わりません。不変の原理を駆使しましょう。

手の交差は飛ぶ先を凝視しよう

6:10あたりから見て、これより悲愴は簡単だから

さて、ここだけは視覚の認知が必要な場面です。3ページ目の第2主題の手の交差はやはり大変です。ここは「見る練習」が必要なのです。

例えば低音へ飛ぶとき、高音を弾きながら目はすでに低音を見ていなくてはいけません。逆も然り。手より先に、飛ぶ先を見ていれば安全です。

また右手の跳躍は左へ行くのが大変なので、腰の重心を左へずらしておくと跳躍しやすくなります。

第2楽章

低音に注意

チェロに弾かせたい旋律ですが、この悲愴の第2楽章の難点はそこにあります。音域がかなり低いのです。

音域が低いと音がはっきりせず、モゴモゴしてしまいます。また倍音が多く、ペダルをはっきり変えないと徐々にグチャーっとした響きになってしまいます。

ペダル、音のクリアさ、そして低音を出しすぎないようにするバランスを意識してくださいね。

余談

(シューマンの超マイナー曲「夜曲Op.23(Nacht stück)」は4曲とも音域が低く、音楽の構成が非常に難しい作品となっています)

ショパン作曲エチュードOp.10-3「別れの曲」に似ている

シシキン、ショパンコンクールで弾いてたんだ

この作品の構成はショパン作曲エチュードOp.10-3「別れの曲」に似ています。1本の旋律がその他の声部に支えられる構成は別れの曲と同じです。

また中間部が激したりテンポの変化が起こることも似ています。このようなあまりにも美しすぎる曲にも裏はあるのですね…

第3楽章

この人のタッチは軽すぎて難しすぎるから真似しないように

思ったより難しい作品

この作品は以外とよく弾かれるのですが、大抵カッスカスかボロッボロになります。なぜならこの作品は思っているより遥かに難しいのです。

第1楽章は音が多いので、ミスがあまり目立ちません。また第2楽章はテンポがゆっくりだしそんなに難しくないです。しかしこの第3楽章は音が少なくミスが目立ち、そのうえ音楽的に弾くことが難しいのでトンチンカンな演奏になってしまいがちです。

冒頭でベートーヴェンらしくない作品と言いましたが、この作品はモーツァルトのスタイルに似ています。だから、ミスが目立って大変なことになるのです。

縦の支えが命

この作品はテンポが速いのに8分音符で書かれているので、テンポがつんのめって走りがちです。冒頭のアウフタクトの作り方からもう走るための曲みたいです(それでも走っちゃダメ)。

テンポを抑えるには支えが重要です。支えがあるから走りにくくなり、テクニックも安定するのです。支えと力を入れることは違うので、混同しないように。

でもこの作品はleggieroなんですよね、そう、支えが作りにくい。しかし支えを用いたleggieroは可能なのです。鍵盤の底を感じても軽い音は出るのです。

工夫して支えを作り、この作品の暴走を止めてください。

あまり速く弾かない

この第3楽章はかなり暴走します。暴走しないように努めても、3連符が出てきた時点でもうだれにも止められません。

練習のときから暴走しない癖を付けましょう。メトロノームを付けた練習には賛否両論がありますが、この曲に限ればほとんど全曲を通してテンポを強制して良いと思います。

決して本番で暴走しないようにしてくださいね、3連符で調子に乗ると必ず公開します。

エディション情報

ベートーヴェンのソナタと言えばあのヘンレの分厚い2冊ですが、どうも運指が悪く、また校訂も40年以上されていないようです。

そこで誕生した、ピアニスト「マレイ・ペライア」が運指を担当した「ペライア版」が、ヘンレ社から出ていますので、そちらを使うとより分かりやすいと思います。

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まとめ

ベートーヴェン作曲「ソナタ第8番ハ短調Op.13(悲愴)」は、ベートーヴェンが名付けた2つのソナタのうちの1つです。長い序奏のついた初めての作品で、第2楽章は特に有名です。第1楽章のオクターヴトレモロ、第2楽章は低音域に注意です。第3楽章は特にテンポが厄介です。

第3楽章は思ったより難しく、第1楽章はご存知の通り難しいです。また第2楽章はショパン作曲「エチュードOp.10-3(別れの曲)」と類似するむずかしさがあります。ぜひ、悲愴ソナタは第2楽章だけではなく全楽章チャレンジしてくださいね。

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