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どうも、 ピアノ部部長、音大生のこうきです。本日はベートーヴェン作曲の「ピアノソナタ第14番Op.27-2(幻想風)」こと「月光ソナタ」の弾き方を解説します。
ベートーヴェン作曲「月光ソナタ」について
宇野昌磨くんのフリープログラムの曲
↑↑宇野昌磨選手の平昌オリンピック2018のフリーの演技、なぜか画像が表示されない…(見られないかも)
「月光ソナタ」と言えばフィギュアスケートの王子、宇野昌磨選手の前シーズン(2018-2019)のフリープログラムで使われた作品です。
音楽をやる者からフィギュアスケートを見ると「ここで跳ぶ?なんか変じゃね?」という場面が多いのですが、宇野昌磨選手は「月光ソナタ」の盛り上がり方を熟知してプログラムを構成していました。
甘いマスクの下に隠れる情熱、来季は「熱情ソナタ」でもいいかもしれませんね。
ベートーヴェンは「月光」と名付けていない
「月の光」という曲はドビュッシーやギロックが書いていますが「月光」はあまり聞きません。そもそも「月光」とはベートーヴェンが付けた名前ではないのです。
ベートーヴェンの名前付きソナタは「田園」や「熱情」「告別」などがありますが、本人がつけたのは「悲愴」のただ1つなのです。
しかし、ベートーヴェンは前作のソナタ第13番Op.27-1と一緒に「幻想風ソナタ」とは書いているので、何かしらの情景を思い浮かべて作曲したのかもしれませんね。
第1楽章
薄暗く光る月光
ベートーヴェンが名付けていないといっても「月光」はあまりな有名すぎる名前なので「月光」を1つの解釈に取り入れて書いていきます。
第1楽章は嬰ハ短調で、暗黒な雰囲気がします。ベートーヴェンのハ短調はもっと直接的な悲劇が感じられますが、嬰ハ短調はより客観的な悲劇だと思います。
そんな暗黒の中にも後述する「ナポリの和音」という「月光」が現れます。曲中何度か出て来ますので、ここで光を差して下さいね。
第2楽章
月の妖精が舞い降りてくる
同じ嬰ハ=変ニの調ですが、こちらは長調になります。暗黒の世界から一転、舞曲のような雰囲気に様変わりします。しかし表記はAllegrettoなので舞曲に固執する必要はなさそうです。
第1楽章とのギャップがあまりにも激しい軽やかで可愛い雰囲気ですが、ここにはベートーヴェンの策略があるのです。
古典派のソナタのテンポは大抵、こんな感じです。
- 第1楽章 速い
- 第2楽章 遅い
- 第3楽章 速い
この形式をベートーヴェンはぶち壊したかったのでしょう、この作品はこんなテンポになっているのです。
- 第1楽章 遅い
- 第2楽章 中くらい
- 第3楽章 速い
そう、だんだん速くなるように作られているのです。ベートーヴェンは非常に計算高い作曲家ですね。
第3楽章
これは難しいっす。
言わずと知れた難曲の「月光」第3楽章。当時はモーツァルトが確立した、作品を有機的にまとめる方法の「主題労作」が流行っていたので、第1楽章の分散和音という要素を用いて、この第3楽章も書かれています。
まさかあの第1楽章がこんな激流に生まれ変わるとは誰も予想しません。ここでいう「主題労作」のわかりやすい説明はベートーヴェン作曲の交響曲第5番Op.67「運命」の第1楽章でしょう。
この第1楽章は、例の「だだだだーん」のリズムでほとんどが形成されているのです。果たして「だだだだーん」は何回出てくるでしょうか、数えてみてくださいね。
「月光ソナタ」の弾き方
第1楽章
支えのあるレガートをマスターしよう
「月光」第1楽章は、テクニック的に難しいところはほとんどありません。甘く見てしまいますが、こういう作品は音楽的なことに目を向けましょう。
この作品の肝はレガートです。ペダルなしでも非常に滑らかに弾くには鍵盤の底を流れていくような支えが必要です。あくまでペダルは補助、あまり使いすぎると倍音が多すぎて「月光」が歪んでしまうのです。
練習方法はとにかく支えを作りつつレガートをし、その感覚を養うことに尽きます。大変に見えますが、1度覚えれば他の作品でも使えますので、ぜひマスターしましょう。
その際「音量が小さくならない」と思う方もいるかも知れません。しかし、音量が小さいまま支えのあるレガートを作ることはできるのです。もともとゆっくりの作品ですが、さらにゆっくり練習してみましょう。
付点のリズムはどうやって弾く?
この作品を弾く約9割の方のリズムはこうです。

普通に弾けばこのようなリズムになるのが当たり前です。しかし、本当にこれで良いのでしょうか?
実は、付点のリズムと3連符が同時に奏でられる場合、付点のリズムは3連符の3つ目の同じタイミングで弾く、という原則がショパンの時代まであったそうなのです。
シューベルトの自筆譜は、付点のリズムが3連符と同じ位置に書かれているのです。

しかし、これには例外があるのです。テンポがゆっくりな作品や、近代の作品は、同時に演奏してはいけないのです。時代や作曲家によって異なります。
この作品はどう演奏すべきか、でもベートーヴェンの頭で鳴っていた音は1番最初に提示した約9割の方のリズムなのかもしれませんね。
意外と暗譜が怖い
この作品はそんなに難しくありません。が、あまり簡単だと思い込んでいると暗譜がぶっ飛んでしまう可能性があるのです。
私も出演したコンサートで、ゲスト演奏のピアニストがこの「月光ソナタ」を演奏したのですが、なんと第1楽章で暗譜がぶっ飛んでしまい、超短縮バージョンで終わってしまいました。
きゃ、私も暗譜確認しなきゃ(明後日本番)。
第2楽章
↑↑さっきの ValentinaLisitsaのリストの死の舞踏(ソロバージョン)
めんどくさいけど練習すれば弾けますよ
この作品ははっきり言ってめんどくさいです。だってなんとなくこの作品適当なんですよね。
ベートーヴェンの後期のソナタ第31番Op.110の第2楽章を聞いてみてください。どうしてこのような適当な作品を出してしまうのでしょうか。私には訳が分かりません。
(作品が嫌いなのは大抵作品をよく聞いていない証拠なのでみなさんはよく聞きましょう、私もよく聞きます。)
第3楽章
速すぎるパッセージは和音でマスター
冒頭からやばい感じが溢れ出ている第3楽章ですが、ここはやはり難しいです。こうすれば弾ける、という1つの明確な指針はないので、あくまで参考にお読みくださいませ。
少なくとも必要なのは、和音の理解です。音大生であれば当然ですが、楽典が弱い方はなかなか感じづらいのです。きちんと説明しますので、ご安心くださいませ。
さて、下記画像をご覧ください。

これは「月光」第3楽章をより簡単に表したものです。ここでご理解頂きたいのは、和音の音は3つしか無いということです。3つの音がどんどん上に積み重なっていくだけなのです。
これはベートーヴェンのピアノソナタ第21番Op.53「ワルトシュタイン」の第2主題の前に、逆の形で現れるのと同じです。
この「和音の展開」は、普段の基礎練習に取り入れることが出来るので、画像だけ置いておきますね。3和音、4和音で可能です。(コルトーのピアノメトード参照)

ここに注意!ナポリの和音
みなさま、ナポリの和音というのをご存知でしょうか?いや分からねーよという声が聞こえましたので、こう見えて音大に通うこうきがご説明いたします。
このナポリの和音が「月の光が差す瞬間」なのです。
まず文章で解説しましょう。ここで和声学の話題を出すと前提知識が大量に必要になるのでこの教え方はイレギュラーですが、結果的にナポリの和音です。
ナポリの和音とは、主音の半音上の音を根音とした長三和音の和音です。
さて、噛み砕いて「月光」を例にご説明いたします。まず主音とは「月光」の調、嬰ハ短調の「嬰ハ」、つまりド♯の音です。
そのド♯の半音上の音、つまりレの音を主音とする長調の和音ですから、ニ長調の和音となるのです。
コードネームが分かる方はDM(Mは付いたり付かなかったりする)です。
ナポリの和音とは主音の半音上のメジャーコードなのです。

いやこれはどうしても調性がはっきり分かる方でないと分からないので、感覚でもいいので光が差しそうな部分に気を付けて弾いてくださいね。
まとめ
「月光」とはベートーヴェンが名付けた標題ではありません。しかし、曲中の「ナポリの和音」に月光は差します。また第1〜3楽章を通してテンポがどんどん速くなるのも、「月光」の特徴です。
難関は第3楽章です。しかしストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの第3楽章」とか、バラキレフの「イスラメイ」、ゴドフスキーの「ショパンエチュードによる53の練習曲集」よりは簡単なので、みなさま頑張って下さい。
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